ソース作りを理解するための道具。
フランス料理のソース仕事を、行き当たりばったりではなく毎日の 手仕事に変える五つの小さな道具――三層鍋、バルーンの泡立て器、 細目ストレーナー、温度計、計り。一品ずつ、それがソースのどの 変数を変えるかを書きました。
熱を穏やかに伝え、煮詰めを安定させる小鍋
家庭でソースが失敗する場面の多くは、鍋底で起きています。火がぶれ、乳成分が焦げ、艶のあった煮詰めが十五秒で粒だってしまう――こうした崩れ方は、ほぼすべて「底だけ温度が走る」せいです。三層構造(ステンレス+アルミ+ステンレス)の鍋は、熱を底全体に分散させるので、底だけが先に進むことがありません。火を止めたあとの惰性も穏やかで、ブール・ブランの最後の一分がきれいに収まります。
1.5 クォート(約 18cm)は二人ぶんにちょうどいい大きさです。パンソースを作るには十分、煮詰めて 100ml の残りを扱うには深さも残る。重く、静かに仕事をする鍋――三度目に手を伸ばしたとき、それまでに何度手を伸ばしていたかを思い出すような道具です。
乳化と空気の入り方を制御する泡立て器
ソース作りはほぼ「泡立てる仕事」です。オランデーズ、サバヨン、マヨネーズ、ブール・モンテ、ヴィネグレット――どれも、脂を細かい粒子に砕いて液体に分散させ続ける、つまり乳化させ続ける作業に支えられています。バルーン型の泡立て器は、まさにそのためにある道具です。広いバルブと細い針金が、上で空気を取り込み、下で脂を砕く。そのリズムの行き来が、できあがったソースの「立ち上がり」をつくります。
ルーのダマを切るには硬く、八十二度近いカスタードのテクスチャを読むには柔らかく――針金の弾性は、ソース用泡立て器でいちばん大事なスペックです。シリコンコート付きはサバヨンや卵黄系には不向きです(シリコンに卵黄が絡みつく)。コーティング鍋用のものと、ソース用に金属の一本を別にしておくのが現実的です。
ソースの舌触りを整えるストレーナー
できあがったソースが「ベルベットのよう」か、それとも「悪くないがあと一歩」か――その差はたいてい、最後の三十秒、ストレーナーを通すところで決まります。フランス料理の伝統では円錐形の細目シノワが現場の標準ですが、家庭ではパンチング型や半球型の細目ストレーナーで、ほとんど同じ仕事が間に合います。やることは同じ――目に見えない固形分を残し、舌が望む形でソースだけを通す、それだけのことです。
家庭料理人にここまでの目の細かさが本当に要るのか、諸説あります。私の見方では、要ります。家庭で「味は悪くないがどこか薄く感じる」ソースの多くは、煮詰め不足ではなく、漉していないだけです。ストレーナーは、できのいいソースを「静かなソース」に変える道具です。
温度で火入れと乳化を読む
オランデーズは 70°C 台後半に向かうにつれて、分離しやすくなります。ブール・ブランがいちばん安定するのは、おおむね 50〜60°C のあいだ ── 狭い窓です。クレーム・アングレーズは 80°C 台前半でとろみが決まり、そこから引き上げが遅れると、なめらかなクリームではなく「クリーム入り煎り卵」になってしまいます。今夜だけ通用する勘と、誰を招いた日でも通用する勘の差は、たいていこの「狭い窓」を数字で読めるかどうかです。
ステーキを 54°C で仕上げてくれる同じ温度計が、サバヨンを止めるべき瞬間も教えてくれます。数値を手の感覚で覚えてしまえば、簡単な料理では温度計を使わなくなります。それまでのあいだ、二秒で読める数字はとても安い保険です。
比率を再現可能にする計り
フランス料理のソースは比率で書かれています。ルーは脂と粉が 1:1。ブール・モンテは煮詰めたフォン 100g に対し冷たいバター 80g。ヴィネグレットは油と酢が 3:1――どれも、カップ計量を経由するとぼやけてしまうが、グラムでなら生き残る記述です。
計りは、ソース作りを「レシピをなぞる工程」から「自分の手で書ける文の集まり」に変えてくれます。比率で料理し始めると、レシピは少しずつ任意のものになります――倍にしたり、半分にしたり、味を修正したりも、勘ではなく算数で出来るようになります。
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